「好きなのか、好きじゃないのか、自分でもわからない」。恋愛相談でこの言葉を聞くたびに、筆者は少しホッとする。なぜなら、それは感情が「ない」のではなく、言葉にする回路がまだつながっていないだけだからだ。
2026年5月現在、心理学では「感情の粒度(エモーショナル・グラニュラリティ)」という概念が注目されている。自分の気持ちを細かく名前づけできる人ほど、感情のコントロールがうまくいき、人間関係の満足度も高いことが複数の研究で示されている。逆に言えば、気持ちに名前をつけるのが苦手なだけで、恋愛がうまく回らなくなるケースは珍しくない。
この記事では、「自分の気持ちがわからない」と感じている男性に向けて、感情を言葉にする具体的な練習法を3つ紹介する。変えられるところから、ゆっくりで大丈夫だ。
なぜ男性は「気持ちを言葉にする」のが苦手なのか
まず知っておいてほしいのは、これは性格の問題ではないということ。心理学には「アレキシサイミア(失感情症)」という概念がある。自分の感情を認識し、言語化するのが難しい傾向のことで、一般人口の約10〜16%にみられるとされている。そして男性は女性よりもこの傾向が強いことが、トロント・アレキシサイミア尺度(TAS-20)を用いた研究で繰り返し報告されている。
背景には「男性規範」の影響がある。Springer Nature Linkに2025年に掲載されたLevantらの研究では、伝統的な男性らしさへの同調が、感情の認識・表現の困難さ(アレキシサイミア)と有意に関連していることが示された。つまり「男は黙って」「泣くな」といったメッセージを長年受け取ってきた結果、感情に名前をつける筋肉が鍛えられてこなかっただけなのだ。
筋肉と同じで、使わなければ衰える。でも逆に言えば、トレーニングすれば育つ。
感情が言葉にならないと、恋愛で何が起きるか
「別に困ってない」と思うかもしれない。でも実際には、気持ちを言葉にできないことで恋愛にはけっこう具体的な損が出ている。
1つ目は、相手に「冷たい人」と誤解されること。好意はあるのに言葉にできない。すると相手は「この人、私に興味ないのかな」と不安になる。PMC(PubMed Central)に掲載されたCostantiniら(2024)の研究では、アレキシサイミア傾向が高い人ほど親密さへの恐怖が強く、恋愛関係の語りにおいてポジティブな感情語が少なくなることが確認されている。
2つ目は、自分自身が疲弊すること。感情に名前がつかないと、モヤモヤがモヤモヤのまま蓄積する。「なんかしんどい」「なんか嫌だ」——この「なんか」を分解できないと、対処のしようがない。結果、恋愛そのものが「疲れるもの」になってしまう。
3つ目は、ケンカがこじれやすくなること。「何が嫌だったの?」と聞かれて「別に」としか言えない。相手は原因がわからないから改善できない。自分も原因を説明できないから歩み寄れない。悪循環だ。
筆者自身、アパレル販売員をしていた20代の頃に似た経験をしている。お客さんに「何がほしいですか?」と聞いても「なんかいい感じの服」としか返ってこないことがよくあった。でもそれは好みがないわけじゃない。言語化の引き出しがないだけだった。「カジュアル寄り?きれいめ寄り?」「休日用?仕事用?」と選択肢を出していくと、ちゃんと答えが出てくる。感情も同じ構造だと気づいたのは、ずいぶん後のことだったけれど。
感情を言葉にする3つの練習法
ここからは具体的な練習法を紹介する。どれも日常の中で1日5分あればできるものばかり。まず1つだけ試してみてほしい。
練習1:「感情メモ」を1日1回つける
やり方はシンプル。夜寝る前に、スマホのメモアプリを開いて、今日いちばん印象に残った場面と、そのとき感じた気持ちを1行だけ書く。
ポイントは「楽しかった」「ムカついた」で終わらせないこと。「楽しかった」をもう一段掘り下げる。「久しぶりに会えて安心した」なのか、「話が盛り上がって興奮した」なのか。ScienceDirectに2025年に掲載された研究では、感情ラベルの粒度を細かくするトレーニングを24日間続けたグループは、感情調整能力が有意に向上したと報告されている。
書く内容は恋愛に限らなくていい。仕事で上司に褒められて「嬉しい」と思ったなら、それは「認められた安堵」なのか「もっとやれるぞという高揚」なのか。この「もう一歩だけ具体的にする」クセが、恋愛の場面でも効いてくる。
練習2:「体の反応」から感情を逆引きする
頭で考えてもわからないなら、体に聞く。これは筆者が毎朝のヨガで実感していることでもある。
たとえば好きな人からLINEが来たとき、胸のあたりがキュッとなる。それは「嬉しい」なのか「緊張」なのか「不安」なのか。あるいは仕事終わりに「会いたいな」とふと思ったとき、肩の力が抜ける感じがするなら、それは「安心を求めている」サインかもしれない。
ヨガでは「ボディスキャン」といって、頭のてっぺんから足先まで体の感覚に意識を向ける練習をする。肩が上がっているなら緊張、胸が開いているならリラックス。これを感情と紐づけるだけで、「自分が今何を感じているか」のヒントが増える。朝起きて30秒、目を閉じて体の感覚を確認するだけでもいい。
練習3:「感情の選択肢リスト」を持っておく
アパレルの接客と同じで、ゼロから言語化するのは難しい。でも選択肢があれば選べる。
以下は、恋愛場面でよく出てくる感情を「ポジティブ」「ネガティブ」「混合」に分けたリストだ。スマホにスクショしておくといい。
ポジティブ系:安心する/ドキドキする/誇らしい/ほっとする/守りたい/もっと知りたい
ネガティブ系:不安になる/寂しい/嫉妬する/申し訳ない/イライラする/がっかりする
混合系:嬉しいけど怖い/楽しいけど疲れる/好きだけど自信がない/離れたいけど寂しい
特に「混合系」が重要だ。人の感情は案外、一色じゃない。「好きだけど不安」「嬉しいけど信じられない」——矛盾した感情を同時に持つのはまったく普通のことで、むしろそれに気づけるのは感情解像度が上がっている証拠でもある。
「わからない」から始めていい
最後に伝えたいのは、完璧に言語化できる必要はないということ。
「好きかどうかわからないけど、会えない日が続くと落ち着かない」——それで十分だ。100点の言葉じゃなくていい。60点でも、言葉にして相手に渡す。それだけで関係は変わる。
筆者がコンサルで「シャツ1枚」から外見改善を始めた男性を見てきたように、内面の変化もまた小さな一歩からしか始まらない。外見は内面に効くし、内面もまた外見に返ってくる。今日の夜、メモアプリを開いて1行書くだけでいい。それが最初の1着だ。
FAQ
「自分の気持ちがわからない」のは病気ですか?
アレキシサイミア(失感情症)は病名ではなく、感情の認識・言語化が苦手な「傾向」のことです。一般人口の10〜16%にみられるとされ、珍しいものではありません。日常生活に支障が出ている場合は、心療内科やカウンセリングで相談するのも一つの選択肢です。
感情メモは何に書けばいいですか?
スマホのメモアプリ、LINEの自分だけのグループ、紙のノート、何でも構いません。大事なのは「1日1回、1行だけ」を続けること。完璧な文章を書く必要はなく、単語の羅列でもOKです。
彼女に「何考えてるかわからない」と言われます。どうすれば?
まず「ごめん、自分でもうまく言葉にできないんだけど」と正直に伝えてみてください。感情の言語化が苦手なこと自体は悪いことではありません。そのうえで、この記事の練習法を試しながら、少しずつ「60点の言葉」を渡す練習をしていくと、関係は変わっていきます。
感情を言葉にするのが恥ずかしいです
恥ずかしさを感じること自体、感情を認識できている証拠です。最初から相手に伝える必要はありません。まずは自分だけのメモに書くところから。誰にも見せない場所で練習を重ねれば、少しずつ抵抗が減っていきます。
この練習はどのくらいで効果が出ますか?
ScienceDirectに掲載された2025年の研究では、24日間の感情ラベリング練習で感情調整能力の向上が確認されています。個人差はありますが、3〜4週間を目安に続けてみてください。
参考文献
- Internalizing Symptoms in Men: The Role of Masculine Norms, Alexithymia, and Emotion Regulation — Sex Roles, Springer Nature, 2025
- Alexithymia in the Narratization of Romantic Relationships: The Mediating Role of Fear of Intimacy — Costantini et al., PMC, 2024
- Beyond happy and sad: Exploring granular affect labeling to enhance emotion regulation ability — ScienceDirect, 2025
- Emotional Granularity Is Not Just About Labels — Psychology Today, 2025






